3月30日(金)~4月1日(日)の3日間、目白花想容におきまして、東京友禅染め作家、成瀬優(なるせゆう)さんの作品展を行います。成瀬さんは東京友禅作家として日々新しい作品を生み出しています。学生時代は早稲田で芝居をしていて、その後、舞台美術などの仕事に就いたようですが、あるとき、転職して着物の作家さんに弟子入りします。それから10年間、弟子として辻が花染めの修業を積み、厳しい生活を乗り越え、染織作家として独立し、今年で独立30年です。ですので、もう40年くらい染めをしているんだと思います。

私(花想容の店主、中野)が初めてお会いしたのは20年くらい前になりますでしょうか。東京友禅のコンクールで、若手なのに2位の東京都知事賞を受賞されていました。その作品は深い森の中に星空が広がる夜景を描いたものでしたが、それを辻が花の技法で表現されていました。その作品に出合ったときはこれまでのどんな着物の印象とも違って、感激しました。

その後、そのままご縁がつながって、仕事をお願いするようになりました。花想容でもおなじみのカラーパレットの帯などは成瀬さんの工房の作品です。夏帯に友禅で柄を描いてもらったり、芸者さんの着物を誂えで染めてもらったり、成瀬さんは辻が花だけでなく様々な技法で染めをされるので、難しい柄の注文を受けたりしたときは、成瀬さん頼みになっています。

成瀬さんは、24時のうち20時間くらい渋谷の工房で染めをされていますが、週末は都内を離れ、山のアトリエに出かけて行って染めをしています。都内から3時間、東京の外れの檜原村というところの山の斜面の土地を30年くらい前に購入し、そこに30年かけて、自分で木を伐り、畑を作り、工房を作っています。もちろんその傍ら、着物も作っています。

私も過去に一度だけ訪問したことがあります。最寄り駅から30分、タクシーで行ったのですが、タクシーの運転手さんも行きたくないというくらい険しい山の中にありました。水道もガスもないようなところに何日も籠って染めをされています。私は常に周りに誰かがいないとダメなので、こんなところで何日も夜を過ごして、染めを続けているという成瀬さんの心境はわかりませんが、逆に、この寂しさの中から生まれる芸術もあるのかもしれません。

このたび、成瀬さんを初めて花想容にお呼びします。花想容も12年になるのに、そして、染めの師匠としても、一緒にアングラ劇団を見にいったりして芝居論を交わす仲で、きもの業界でも一番古くからお付き合いさせていただいているのに、12年間で一度も花想容にお越しいただいたことがないのです。そのことに気づき、そういえば、成瀬さんはまだ花想容に来たことが無いんだということで、そういう理由で急遽、作品展をさせていただくことにしました。

私がふと、成瀬さんのことが気になり電話したところ、3月末の3日間は山に籠る予定だったらしいのですが、山には行かず、花想容に来てもいいということになりまして、今回の催事が実現しました。成瀬さんには東京キモノショーでも毎回大きな壁面の展示をお願いしたりと、大変にお世話になっております。花想容ではもう少し落ち着いて作品を紹介できると思いますので、どうぞお気軽にお出かけくださいませ。とても気さくな方ですし、キャラクターがともて面白い方です。それと、どんな要望にも応えてくれる染めの技術もお持ちです。

100色100反の色無地 今回、花想容に100反の色無地をお持ちいただきます。お誂え染め仕立て上がり特別価格120,000円(税別)